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広島地方裁判所 昭和62年(行ウ)5号 判決

原告 奥浪良之

被告 三原市

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和六一年二月一三日付けでした、備後圏都市計画事業三原駅前第一種市街地再開発事業の権利変換計画において原告が取得した建築施設の部分の価額を三二二四万七三八二円と確定する旨の処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  本案前の答弁

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  本案についての答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、備後圏都市計画事業三原駅前第一種市街地再開発事業(以下「本件再開発事業」という。)を施行した。

2  原告は、従前、右再開発事業の施行地区内に土地及び建物を所有していたところ、右再開発事業の権利変換処分(以下「本件権利変換処分」という。)により、権利変換計画書記載のとおり、本件再開発事業の施設建築物(西棟及び東棟の二棟の建物であり、西棟一ないし五階、東棟地下一階、一ないし三階の各階平面図は、別紙一ないし九記載のとおりである。以下、右建物を「本件建物」という。)の一部(専用部分は、西棟の一ないし三階の店舗〈1〉及び東棟の地下一階、一、二階の店舗〈1〉の共有持分)を取得するものとされた。

3  被告は、原告に対し、昭和六一年二月一三日付けをもって、原告が取得したとする建築施設の部分の価額を三二二四万七三八二円と確定する旨の処分(以下「本件処分」という。)をし、右通知書は、その頃原告に到達した。

4  しかしながら、本件処分は、次の理由により違法である。

(一) 都市再開発法(以下「再開発法」という。)一〇三条一項に規定する価額等の確定処分は、工事が完了した後に行われるべきものであるところ、本件建物のうち別紙一ないし四の各No.5の部分(西棟一ないし四階)及び別紙六のNo.10の部分(東棟地下一階)は、未だ建物として完成したとはいえず、完成させるためにはかなりの額の支出が必要である。したがって、本件処分は、本件建物が未だ完成していないにもかかわらずなされたものであって、違法である。

(二) 本件権利変換処分の通知書に添付された平面図(以下「計画平面図」という。)と実際の建物との間には、左記〈1〉ないし〈18〉に述べるような大きな差異がある。これは、被告が本件権利変換処分後に設計変更を行ったためであるが、かかる変更に際しては、再開発法上権利変換計画の変更手続を経なければならないとされているにもかかわらず、被告は、これを経ておらず、右設計変更は違法である。したがって、右違法な設計変更を前提にしてなされた本件処分もまた違法である。

〈1〉 別紙一のNo.1の部分(西棟一階)は、計画平面図上は通路として階段と店舗〈1〉に通ずるようになっているにもかかわらず、階段が封鎖され、通路と階段の間に壁が作られ、同店舗への通路が封鎖され、共有床の共用部分が喫茶店として使用され、ホテルの一部となっている。これにより、店舗〈1〉は、その経済的価値が大幅に減少した。

〈2〉 別紙一のNo.2の部分(西棟一階)は、計画平面図上は通路となっているにもかかわらず、壁によって封鎖されている。これにより、店舗〈1〉への往来が減り、その経済的価値が減少した。

〈3〉 別紙一及び二の各No.3の部分(西棟一、二階)は、計画平面図上は店舗〈1〉の一部であるが、実際には、建物全体の機械室とされている。これにより、同店舗の価額が大幅に減少した。

〈4〉 別紙一のNo.4の部分(西棟一階)は、計画平面図上は規約共用部分であるにもかかわらず、実際には、店舗〈4〉―2の酒屋の一部として店舗となっている。これにより、同店舗の価額は、大幅に増大した。

〈5〉 別紙一ないし四の各No.5の部分(西棟一ないし四階)は、計画平面図上は階段として自由に利用できるように設計されているにもかかわらず、実際には使用不能の状態になっている。これにより、店舗〈1〉の価額が減少した。

〈6〉 別紙二のNo.6の部分(西棟二階)は、計画平面図上、共用部分の通路とされているにもかかわらず、ビリヤード店が店舗として使用している。

〈7〉 別紙三のNo.7の部分(西棟三階)は、計画平面図上は規約共用部分とされているにもかかわらず、店舗〈17〉の一部として使用されている。これにより、同店舗の価額は、上昇した。

〈8〉 別紙六のNo.8の部分(東棟地下一階)は、計画平面図上、店舗〈1〉の一部であり、トイレが設置されることになっていたが、一部が壁で仕切られ、店舗が減少し、トイレも設置されていない。これにより店舗〈1〉の価値が減少した。

〈9〉 別紙六のNo.9の部分(東棟地下一階)は、計画平面図上は規約共用部分であるにもかかわらず、トイレが設置されている。

〈10〉 別紙六のNo.10の部分(東棟地下一階)は、計画平面図上は空白部分であり、何も存在しないはずであるにもかかわらず、建物が増築されている。将来、何らかの店舗として使用される可能性があり、また、建物の建築面積が増加したのであるから、当然、価額算定の根拠が変更されたはずである。

〈11〉 別紙六のNo.11の部分(東棟地下一階)は、計画平面図上は空白部分とされているにもかかわらず、第三者が店舗として使用している。

〈12〉 別紙七のNo.12の部分(東棟一階)が計画平面図と異なり、店舗〈2〉―1の一部として増築されている。これにより、同店舗の価値が大幅に増大した。

〈13〉 別紙七のNo.13の部分(東棟一階)は、計画平面図上は空白部分とされているにもかかわらず、建物が建築されている。これにより、建物の価額は、大幅に修正されるはずである。

〈14〉 別紙七のNo.14の部分(東棟一階)は、計画平面図上は共用部分とされているにもかかわらず、店舗〈2〉―1に変更されている。これにより、同店舗の価額は、大幅に増大した。

〈15〉 別紙八のNo.15の部分(東棟二階)の部分において建物が増築され、店舗〈2〉―2に増床されている。これにより、建物の価額算定の根拠は、修正されなければならず、また、同店舗の価額は、大幅に増大した。

〈16〉 別紙八のNo.16の部分(東棟二階)は、計画平面図上は共用部分とされているにもかかわらず、店舗〈2〉―2の一部として増床されている。これにより、同店舗の価額は、大幅に増大した。

〈17〉 別紙八のNo.17の部分(東棟二階)は、計画平面図上は店舗〈1〉の一部であるが、これが変更され、店舗〈18〉―1の一部とされている。これにより、店舗〈1〉の価額は減少し、店舗〈18〉―1の価額は増大した。

〈18〉 別紙九のNo.18の部分(東棟三階)は、計画平面図上は共用部分とされているが、実際には、店舗21の一部とされている。これにより、同店舗の価額が大幅に増大した。

(三) 本件権利変換処分により原告が取得することとされた建築施設の部分の価額に比して、実際に原告に与えられた建築施設の部分の価額は、設計変更等による面積の減少等(例えば、西棟一階通路を壁で仕切って封鎖している。)に伴い、明らかに減少しているのに、清算額が零ということはあり得ないことである。被告は、設計変更により、権利変換計画における施設建築物と実際のものとが多くの点で相違しているにもかかわらず、右相違を全く無視し、これを考慮しないで本件処分をしている。

(四) 本件建物は、東棟、西棟とも構造上、区分所有権の対象となる建物(以下「区分所有建物」という。)でないにもかかわらず、本件処分は、本件建物が区分所有建物であることを前提になされており、価額の算定を誤っている。

(五) 本件権利変換計画においては、本件建物全部が権利者全員による共有であるとされていたにもかかわらず、被告は、一部の権利者にだけ区分床(区分所有権の対象となる建物部分)を与えたため、権利者間に不均衡が生じている。かかる不均衡な状態を考慮しないで算定された本件処分における建築施設の部分の価額は著しく不当である。

(六) 本件処分によると、原告が従前有していた宅地及び建築物の価額は金二九二四万七三八二円とされているが、これは、著しく低額である。

(七) 価額確定処分の通知に際しては、図面を付さなくてはならないところ、本件処分の通知書には、図面が付されていない。

(八) 本件権利変換処分は無効であって、被告は、価額確定処分をすることはできないのに、敢えてこれを強行したものである。

5  よって、原告は、本件処分の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

再開発法一〇三条一項に規定する価額確定通知は、関係者に対し何らの権利変動も及ぼすものではなく、抗告訴訟の対象となる部分ではないから、本件訴えは、不適法である。

三  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1ないし3の事実は認める

2(一)  同4の冒頭の主張は争う。

(二)  同(一)は否認する。本件建物は、既に完成している。

(三)  同(二)の冒頭の事実のうち一部設計変更がなされたことは認めるが、違法な設計変更を前提としてなされた本件処分もまた違法である旨の主張は争う。

同〈1〉のうちNo.1の部分の約半分をホテルが喫茶 店として使用していることは認めるが、右部分が共有床であること、右部分が店舗〈1〉に通ずる通路として設計されていたこと、階段が封鎖されていること、同店舗の経済的価値が減少したことは否認する。右部分は、原告が持分を有する店舗〈1〉の共用部分ではなく、階段部分に通じる通路として計画された西棟全体の共用部分であり、右部分と店舗〈1〉の間には、計画平面図においても壁面を設けることになっていたものである。

同〈2〉のうちNo.2の部分が計画平面図上通路とされていたのを設計変更により壁面としたことは認めるが、店舗〈1〉への往来が減り、経済的価値が減少したことは否認する。右設計変更は、ホテルと他の店舗部分とでは営業時間に相違があることを考慮し、右部分に計画していたホテルの出入口の設置を取り止め、同部分を壁面としたものである。

同〈3〉のうちNo.3の部分が計画平面図上店舗〈1〉の一部であり、機械室とされていることは認めるが、その余は否認する。右部分は、同店舗が利用する空調機の機械室として計画されていたものであり、計画どおりに施工されている。

同〈4〉のうちNo.4の部分が酒屋の店舗であることは認めるが、その余は否認する。右部分は、ぬたや酒販株式会社が昭和五六年三月二一日から酒類販売業を営んでいる場所であり、店舗〈4〉―2は、株式会社サン電社が家電販売業を営んでいる場所であって、両者は、無関係である。

同〈5〉のうちNo.5の部分が計画平面図上階段として計画されていたことは認めるが、その余は否認する。右部分には、計画どおり避難階段が設置され、避難用に利用し得る状態にある。

同〈6〉のうちNo.6の部分が西棟の共用部分(通路)とされていること、その一部をビリヤード店が店舗として使用していることは認める。しかし、これは、西棟のビル管理上の問題にすぎず、設計変更ではない。

同〈7〉のうちNo.7の部分が西棟の共用部分(通路)とされていること、その一部を店舗〈17〉が使用していることは認めるが、その余は否認する。右部分を店舗〈1〉及び店舗〈17〉が使用しているが、これは、西棟のビル管理上の問題にすぎず、設計変更ではない。

同〈8〉、〈9〉、〈10〉、〈13〉のうち、No.8の部分が店舗〈1〉の一部であり、トイレが設置されるよう計画されていたこと、同部分が一部壁で仕切られ、トイレが設置されていないこと、No.9の部分が共用部分であり、トイレが設置されていること、No.10、13の各部分に建造物が建築されていることは認めるが、その余は否認する。計画平面図では、東棟三階の取入口から取り入れた新鮮空気をその階下に順次設置された別紙八のNo.16の部分(二階)、別紙七のNo.14の部分(一階)、別紙六のNo.9の部分(地下一階)のダクトスペースを通して地下部分へ送る計画であったが、別紙七の店舗〈2〉―1及び別紙八の店舗〈2〉―2の機能を高めるため、取入口の設置場所を三階から別紙七のNo.13の部分(一階)に変更し、ここから取り入れた空気を別紙六のNo.10の部分(地下一階)の給気ピット(東棟の共用部分)を通して地下部分に送り込むよう設計変更した。その結果、別紙六のNo.9の部分(東棟の共用部分)が不要となったので、これを店舗〈1〉の区分所有の目的たる部分とし、別紙六のNo.8の部分の一部に設置する計画であった従業員便所を右No.9の部分に設置するように変更した。また、別紙六のNo.8の部分は、店舗〈1〉の区分所有の目的たる部分であるが、昭和五六年三月二一日以降入居者がなく、空床であったため、一部壁面で仕切って一時的に倉庫として利用しているが、これらの変更により店舗〈1〉の価値が減少したことはない。

同〈11〉のうちNo.11の部分の一部が店舗として使用されていることは認めるが、その余は、否認する。右部分は、東棟の共用部分(通路)であり、右使用は、ビル管理上の問題にすぎず、設計変更ではない。

同〈12〉及び〈15〉のうち計画平面図を変更し、No.12及びNo.15の各部分を増加させたことは認めるが、その余は否認する。被告は、変更後価額確定をしており、問題はない。

同〈14〉及び〈16〉のうちNo.14の部分が店舗〈2〉―1の、No.16の部分が店舗〈2〉―2の各区分所有の目的たる部分に変更されたことは認める。これは、前記の新鮮空気の取入口の設置場所の変更により、右各部分が共用部分として不要になったことに伴う設置であるが、被告は、変更後価額確定をしており、問題はない。

同〈17〉のうちNo.17の部分が計画平面図では、店舗〈1〉の区分所有の目的たる部分とされていたが、店舗〈18〉の区分所有の目的たる部分に変更されたことは認めるが、被告は、変更後価額確定をしており、問題はない。

同〈18〉のうちNo.18の部分が店舗〈21〉の区分所有の目的たる部分に変更されたことは認める。同部分は、東棟全体の共用部分であったが、不要となったため、右のように変更したが、被告は、変更後価額確定をしており、問題はない。

(四)  同(三)は否認する。再開発法一〇三条一項に規定する価額の確定は、工事完了後に完成した施設建築物の評価額に基づいて計算されるものであり、本件処分においても、前記設計変更及び現状の評価は、当然価額算定に当たり考慮されている。

再開発事業における建築施設の部分の確定額は、当該事業に要した費用に権利変換額を加え、補助金等を控除した額とすることとなっているところ、本件再開発事業に要した費用の確定額は、一五八億四〇九二万一〇二一円であり、その額に権利変換額を加え、補助金等を控除した建築施設の部分の合計額の確定額は一三七億七二五一万〇九五三円となり、権利変換計画における概算額である一二三億三六五三万円を上回ることとなったが、権利変換を受ける原告らに新たな負担を生ぜしめないために右概算額に等しい額を建築施設の部分の確定額としたものである。

(五)  同(四)のうち本件建物が区分所有建物でないこと、価額の算定を誤っていることは否認する。

(六)  同(五)のうち一部の権利者に区分床を与えたことは認めるが、その余は否認する。本件建物は、権利変換計画においても区分所有建物とされており、建物全体が権利者全員による共有とされていたものではない。一部の権利者に区分床を与えたことについては合理的な理由がある。

(七)  同(六)のうち原告の従前の宅地、建物の価額が原告主張の額とされていたことは認めるが、その余は争う。

再開発法においては、施行者は、権利変換計画において、従前の権利者が有する宅地、建築物等の価額(以下「従前の価額」という。)を定めるものとされており、権利者は、権利変換計画の縦覧期間内にこれについて施行者に意見書を提出することができ、意見が採択されない場合は、三〇日以内に収用委員会にその価額の採決を申請することができることとされている。しかるに、原告は、右手続をとっていないから、原告に係る従前の価額は、既に確定しており、本訴において右価額を争うことはできないものというべきである。

(八)  同(七)のうち本件処分の通知書に図面が付されていなかったことは認めるが、その余は否認する。再開発法には、価額確定の通知に際して図面を付さなければならない旨の規定はなく、原告の主張は失当である。

(九)  同(八)は争う。本件権利変換処分は有効であり、被告は、これを前提として再開発法一〇三条一項の規定に基づいて本件処分を行ったものであり、何ら違法はない。

3  同5は争う。

4  以上のように、本件処分は、再開発法一〇三条一項の規定に則って行われたものであり、適法である。もっとも、右2の(四)で述べたとおり、原告が取得した建築施設の部分の価額の本件処分における確定額は、本来の価額を下回っているが、これは、権利変換を受けた原告らに新たな負担を生ぜしめないための措置であり、本件処分は、原告に何らの不利益をもたらすものではない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1ないし3は当事者間に争いがない。

二  被告は、本件処分は、抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しないと主張するので、判断するに、行政事件訴訟法三条二項にいう抗告訴訟の対象である「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは、行政庁がその優越的な地位に基づき権力的意思活動として行うものであって、その本来的な効果として直接国民の権利義務を形成し又はこれに影響を与え若しくはその範囲を確定することが法律上認められているものを指すものと解するのが相当である。

ところで、本件のような市町村が施行する第一種市街地再開発事業は、法律上、都市計画法に基づく都市計画決定(その案の公告、縦覧)、再開発法に基づく事業計画の決定、公告に始まり、権利変換計画の決定、権利交換処分を経て、工事、清算、施設建築物への入居に至る一連の手続からなるものであるが、本件処分との関連で権利変換計画の決定から清算までの手続を概観すると、以下のとおりである。

1  施行者により事業計画が決定され、公告されると、施行地区内の宅地、建築物等の所有者等は、右公告の日から三〇日以内に権利の変換を希望しない旨申し出ることができるものとされており(再開発法七一条)、右手続により、権利変換を受けるべき対象者が確定する。施行者は、右期間経過後、遅滞なく、権利変換の基礎となる権利変換計画を定め、右計画には、〈1〉 配置設計(施設建築敷地並びに施設建築物及びその一部の位置及び大きさが明らかになるような設計図面であり、この配置設計において、関係権利者が権利変換手続によって従前の資産に対応して与えられる再開発後の新資産が明らかにされる。)、〈2〉 施行地区内に宅地、借地権又は権原に基づき建築物を有する者で、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所、〈3〉 〈2〉に掲げる者が施行地区内に有する宅地、借地権又は建築物及びその価額、〈4〉 〈2〉に掲げる者に〈3〉に掲げる宅地、借地権又は建築物に対応して与えられることとなる施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等の明細及びその価額の概算額等の事項を定めるものとされている(再開発法七二条、七三条)。権利変換計画は、縦覧及び都道府県知事の認可の手続(同法八三条、七二条)を経た上、その旨公告するとともに、関係権利者に関係事項を書面で通知し、右通知により権利変換処分が行われたこととなる(同法八六条)。そして、関係権利者の権利変換の効力は、権利変換期日に発生し(同法八七条ないし八九条)、施行者は、右権利変換期日後遅滞なく、権利変換期日において生じた権利の得喪変更に関する登記の申請又は嘱託をする(同法九〇条)。

2  その後、当該第一種市街地再開発事業に係る工事に着手することとなるが、事業計画に従って工事が完成したときは、施行者は、その旨公告し(同法一〇〇条)、施設建築物に関する登記を経由する(同法一〇一条)こととなる。

3  施行者は、工事が完了したときは、すみやかに当該事業に要した費用の額を確定するとともに、施設建築敷地、その共有持分若しくは施設建築物の一部等を取得した者等ごとに、施設建築敷地、その共有持分若しくは施設建築物の一部等の価額等を確定し、これらの者にその確定した額を通知する(同法一〇三条一項)。

そして、右により確定した施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等の価額とこれを与えられた者がこれに対応する権利として有していた施行地区内の宅地、借地権又は建築物の価額とに差額があるときは、施行者は、その差額に相当する金額を徴収し、又は交付し(同法一〇四条)、清算を行うものとされている。

そこで、検討するに、以上のように、施行者の定める権利変換計画に基づく権利変換処分により、従前の関係権利者のうち、特に権利の変換を希望しない旨の申出をした者以外の者に対しては、施設建築敷地の共有持分又は施設建築物の一部等が従前の権利に対応して与えられることとなる。しかし、施設建築敷地や施設建築物は、権利変換計画に基づいて権利変換期日が到来し、権利の得喪変更があった後、土地の明渡しを求め、その後、建築工事その他の工事に着手し、その工事が完了して始めて存在することとなる関係から、施設建築敷地及び施設建築物が現実に出来上がるまでは、その整備に実際に要する費用は、見込額とならざるを得ず、また、これらの設計について建築途中で変更が行われる事態も考えられ、権利変換計画を定める段階では、厳密な評価が不可能であるため、権利変換計画においては、施設建築敷地の共有持分、施設建築物の一部等の価額は、概算額をもって定めることとし、工事が完了したときに、施設建築敷地、その共有部分若しくは施設建築物の一部等の価額等を確定するものとしているのである。そして、右確定額と権利変換計画に記載されている従前の資産の価額とに差額があれば、施行者は、その差額に相当する清算金を徴収、交付しなければならず、これに対応して、従前の関係権利者は、清算金納付義務を負い、又は、清算金交付請求権を取得するに至る。そうだとすると、再開発法一〇三条一項に規定する価額等の確定は、清算金交付請求権又はその納付義務という国民の権利義務を形成し、その範囲を確定するものであると解するのが相当である。

したがって、本件処分は、抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するものというべきである。

よって、被告の本案前の主張は採用しない。

三  次に、原告主張の違法事由について検討する。

1  請求原因4の(一)について

(一)  原告は、本件建物には、完成していない部分があると主張するので検討する。

(1) 別紙一ないし四の各No.5の部分について

証人大枝潔の証言により別紙一ないし四の各No.5の部分(本件建物の西棟一ないし四階)を撮影した写真と認められる乙第四ないし第七号証の各一、二及び右証言によれば、右部分は、西棟の一階から四階に通じる避難用階段であり、コンクリートのいわゆる打ちっぱなしの状態であるが、右は、当初の設計による仕様どおりであり、右状態で完成していることが認められる。

(2) 別紙六のNo.10の部分について

証人大枝潔の証言により別紙六のNo.10の部分(本件建物の東棟地下一階)を撮影した写真と認められる乙第八号証の一、二及び右証言によれば、右部分には、東棟の地下一階に新鮮空気を送り込むための吸気口が設置され、内部は、いわゆるコンクリートの打ちっぱなしの仕上げであるが、これは、設計どおりの仕上がりであり、右状態で完成していることが認められる。

(二)  成立に争いがない乙第二、第三号証及び証人大枝潔の証言によれば、本件再開発事業の工事は、本件建物の建築工事を含め、全部完了したことが認められる。

2  同4の(二)について

原告は、被告は、所定の手続を経ないで設計変更した違法がある旨種々主張するが(証人大枝潔の証言によれば、原告が設計変更がなされたと指摘するものの中には、計画どおり施工、使用されているもの(請求原因4の(二)の〈3〉、〈5〉)、建築工事は、計画どおり施工されたが、単に、工事完了後に入居者が計画とは異なった使用をしているにすぎないもの(同〈1〉、〈4〉、〈6〉、〈7〉、〈11〉)で、設計変更とはいえないものがあることが認められる。)、再開発法一〇三条一項の規定に基づく施設建築敷地、その共有持分若しくは施設建築物の一部等の価額の確定は、現実に完成した施設建築物等について評価し、右価額を確定するものであるから、施設建築物の設計変更の手続に違法があったとしても、それは、右価額の確定自体を違法ならしめるものではなく、ただ、確定された価額が、右変更により現実に完成した施設建築物の価額を反映していない場合に、価額の算定を誤ったという意味において違法性を帯びることがあるにとどまるものと解するのが相当である。

したがって、設計変更の手続が違法であるから本件処分が直ちに違法である旨の原告の主張は失当である。

のみならず、証人大枝潔の証言によれば、本件権利変換計画に基づく権利変換処分により原告が取得することとされていた建築施設の部分の価額が設計変更によって減少したようなことはなかったことが認められるから、原告は、右設計変更の手続の違法を理由として本件処分の取消しを求めることはできないものというべきである。

3  同4の(三)について

原告は、設計変更を無視して価額を算定していると主張するところ、成立に争いがない甲第二号証、乙第一号証、証人大枝潔の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件権利変換計画における建築施設の部分の概算額の合計は、一二三億三六五三万円であったこと、ところが、工事完了後に、再開発法及び同法施行令の規定に基づいて建築施設の部分の価額を算出したところ、一三七億七二五一万〇九五三円となったこと、この額をもって建築施設の部分の価額の確定額とすると、権利変換を受けた原告ら従前の権利者から清算金を徴収すべきこととなること、しかし、被告は、本件再開発事業に当たって、従前の権利者に対し、権利変換計画における概算額をもって確定額とする旨説明していたこともあり、従前の権利者に新たな負担を生ぜしめないために、右概算額をもって建築施設の部分の確定額とし、ここで生じた不足分を保留床の処分により補うこととしたこと、各権利者の取得した建築施設の部分の確定額についても、同様の理由から概算額と同額とされたこと、本件権利変換計画及びこれに基づく権利変換処分によって原告が取得した建築施設の部分は、その後変更されることなく、それを前提として右建築施設の部分の価額を確定する本件処分がなされたことが認められる。

以上によれば、原告の取得した建築施設の部分の本来の価額についても、権利変換計画における概算額を上回ることが明らかであるが、被告は、原告に新たな負担を課さないために概算額をもって確定額とし、本件処分をしたものと認められる。

そうだとすると、本件処分における建築施設の部分の価額自体は、原告に対し利益にこそなれ何ら不利益を及ぼすものではないから、その不当をいう原告の主張は、失当であるといわざるを得ない。

4  同4の(四)について

原告は、本件建物は、構造上、区分所有建物でないにもかかわらず、本件処分は、区分所有建物であることを前提になされた違法があると主張するが、前掲乙第一号証、成立に争いがない乙第九、第一〇号証によれば、本件建物は、構造上、区分所有建物であり、その旨登記されていることが認められる。

したがって、原告の主張は、失当というほかない。

5  同4の(五)について

原告は、本件権利変換計画においては、新築される建物全部が権利者全員による共有であるとされていたにもかかわらず、被告は、一部の権利者にだけ区分床を与えたため、権利者間に不均衡が生じているが、かかる不均衡を考慮せずに算定された価額は、著しく不当であると主張する。

しかし、前掲乙第一号証、証人大枝潔の証言によれば、本件建物は、右認定のとおり区分所有建物であり、本件権利変換計画においては、区分所有権の目的たる建物の部分の全部が権利者全員による共有とされていたのではなく、複数の権利者の共有とされた部分(共有床)と一名の権利者が単独で所有することとされた部分(区分床)とが予定されていたこと、右権利変換計画に基づく権利変換処分により、原告を含む権利者は、共有床を取得し、他の一部の権利者は、区分床を取得したことが認められる。

したがって、一部の権利者にのみ区分床を与えたのは、権利変換計画に則ったものであって、何ら違法な点はないのであるから、その余について判断するまでもなく、原告の主張は失当である。

6  同4の(六)について

原告は、原告の従前の資産の価額が著しく低額であると主張する。

再開発法によれば、従前の資産の価額は、権利変換計画において定められ(七三条一項三号)、公衆の縦覧に供されるとともに、権利者に通知され(八三条一項)、権利者は、縦覧期間内に、これについて意見書を提出することができ(同条二項)、施行者は、右意見書に係る意見を採択すべきであると認めるときは権利変換計画に必要な修正を加え、意見を採択すべきでないと認めるときはその旨を意見書を提出した者に通知するものとされ(同三項)、右通知を受けた者は、三〇日以内に収用委員会にその価額の採決を申請することができ(八五条一項)、さらにその裁決に不服がある場合には、三月以内に施行者を被告として裁判所に訴えを提起することができることとされている(八五条一項、土地収用法一三三条一項)。

このように、従前の資産の評価の不服については、別異の争訟手続が規定されているのであって、建築施設の部分の価額の確定を内容とする本件処分の取消訴訟において、従前の資産の評価の誤りを違法事由として主張することはできないものと解するのが相当である。

よって、従前の資産の評価の不当をいう原告の主張は失当である。

7  同4の(七)について

原告は、価額確定処分の通知に際しては、図面を付さなくてはならないと主張するが、再開発法一〇三条一項の価額の確定通知に図面を添付することは、法律上、要求されていないものというべきであるから、図面が付されていないことをもって本件処分が違法であるということはできない。

よって、この点に関する原告の主張は採用しない。

8  同4の(八)について

原告は、本件権利変換処分が無効であるにもかかわらず、被告は、本件処分を強行したものであると主張する。しかし、行政処分が無効とされるのは、当該処分に重大かつ明白な瑕疵が存する場合に限られ、この点について無効を主張する者において主張立証すべきであるところ、原告は、本件権利変換処分につき無効事由の存することについて何ら具体的な主張、立証をしない。

よって、原告の右主張は、採用の限りでない。

9  以上のとおりであって、本件処分には、原告が主張するような瑕疵はなく、その他これを取り消すべき違法事由は認められないから、本件処分は、適法というべきである。

四  以上の説示に照らせば、原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高升五十雄 青柳勤 蓮井俊治)

別紙一ないし九〈省略〉

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